モチベーション特性

 モチベーションを高めるには、承認欲求・自己実現欲求が満たせる状態になれる、目指せると思えなければならない。しかし、どうなれば欲求が満たせるのか、このことは個々人よって異なるものであり、一様に語れるものではない。一般的に個々人の性格や志向は異なり、いくつかのタイプに分かれるのだ。以下に、4タイプに分けて簡単に説明する。

・A(attacking).結果追求タイプ;
 人に頼らず自分の力で結果を出すことにこだわるタイプ。
 一国一城の主として、勝ち負けにこだわり、自己責任の元、成功を目指す。人との競争において、秀でることを目指し、結果を出すことに執着する。実行に対して、自分自身に責任・裁量権が与えられないと、物足りなさを感じ、モチベーション低下につながる。また、目標は自ら高く設定する傾向が強く、目標が低いとモチベーションは高まらない。
 このタイプは、大幅に権限移譲をすると期待以上の成果が期待できる。

・T(thinking).分析論理タイプ;
 自身の知識を広げ、探求することにこだわるタイプ。
 物事を論理的に探究し、誰もが到達できない解を導き出すことにこだわるタイプ。特定の分野を深堀、探求したりすることで、問題解決にあたる傾向が強い。因果関係を明確にして突き進めることにモチベーションを感じる。逆に、計画のない行き当たりばったりの環境では、全くモチベーションが高まらない。示される方向性の論拠も明確で論理性が無ければ、モチベーション低下につながる。
 このタイプは、困難な課題に直面すると期待以上の成果が期待できる。

・F(feeling).発想感覚タイプ;
 自分らしさを追求しオリジナルの発想を重要視するタイプ。
 自分らしさ、自分の発想、感覚の趣向が強く、オリジナル性を志向し、新しい価値の創出にこだわる傾向が強い。自身の置かれている環境に自由度がなく発想や活動を阻害する様だと、大きくモチベーションが下がる。また、対応する役割に独自の工夫や相違が必要ない、定型的な行動を強いられるとモチベーションは下がる。
 このタイプは、誰もが未着手の新分野に直面すると、期待以上の成果が期待できる。

・E(empathy).貢献中立タイプ;
 誰かに感謝される、ありがとうと言われたいタイプ。
 人との協調性を重視し、対立を好まず、中立を保とうとする。その上で、人の役に立つことに喜びを感じるタイプ。個人ではなく、チームの成績にこだわり、リーダーではなく、縁の下の力持ちとして支えるタイプ。結果よりもプロセスを重視する。目標ノルマなど結果を厳しく追及されたりするとモチベーションは低下する。成果よりも感謝を受けることにモチベーションを感じる。逆に、無関心に置かれると、たちまちモチベーションは下がる。
 このタイプは。協力的な対人環境に置かれると、期待以上の成果が期待できる。

 以上の様に、タイプを見極めず、良かれと思って実施した施策が、逆効果でモチベーションを下げてしまう結果となり得ることを理解して欲しい。
 試しに身の回りの人物を見てもらいたい。面白いぐらい、上記4タイプで分類できることがお分かりになるのではないだろうか。勿論、筆者の様に、強烈なAタイプと若干のTタイプを持ち合わせる分かり易いパターンから、それ程極端ではなく、バランスよく2パターンを持ち合わせるなど人それぞれである。
 組織構成要因としても、このタイプのバランスが必要であり、Aタイプばかりの集団では、衝突ばかりで結果の前に破綻が見えてきて、モチベーションが生まれなくなってしまう。この特性を見極めた組織、人員配置が必要なのだが、日本の企業は、この考えとは程遠い組織人事が行われるのが、日本型企業の特徴である。どのタイプでも同様の役割、同様のチャンスが与えられる、終身雇用の平等性により、むしろモチベーション低下を招き、生産性の最大化が困難であるのが実態である。
 逆に言うと、この点を改善するだけで、飛躍的進歩の可能性も秘めているのである。

『じんざい』の4象限

『じんざい』という言葉に想いを込めた当て字を、図に示す。

 横軸をモチベーションの高さ、縦軸を能力の高さで、4象限で表している。右上のカテゴリ、モチベーションも能力も高い人、この象限には『人財』という字を当てる。言うまでもなく、社会にとって、組織にとって、財産となるべき、活躍が期待される人財なのである。
 その下の象限、モチベーションは高いが、能力が伴っていない人、この象限には、『人材』という字を当てる。モチベーションの高さを活かして、教育訓練して、知識も詰め込み、経験を積めば、必ずそれを活かす活躍が期待される原石であり、この時点では『材』の字を当てるが、右上の象限を目指せる、期待すべき層である。
 左の上の象限、モチベーションは低いが、実は能力が高い人、この象限は『人在』という字を当てる。人それぞれの個性であり、価値観なので、全面否定は出来ないが、一般的には勿体無い人達なのである。何か、価値観を変えるような出来事や、きっかけを与えれば大きく化ける。至極当然だが、元来能力を持っているのだから、やる気になりさえすれば力を発揮するのである。マッチする環境の提供、環境変化が必要な層なのである。
 実は、世の中の多くの人は、この象限に属すると言っても過言ではないだろう。2:8の法則(パレートの法則)と同様、右側の象限に属する全体の2割が、世の中を動かしている。しかし、動かしている層がマイノリティであるのも事実であり、左側の層から右側に僅かでもシフトすることで、世の中、組織は劇的に良くなる。従って、モチベーションを向上させる環境構築、施策は人が育ち、活躍する上で、最大の要素となるのである。
 左の下の象限、モチベーションも能力も低い人、この象限は『人罪』という字を当てる。非常に厳しい当て字だが、しかし、モチベーション向上策で変わりうるのである。モチベーションと能力のどちらを先に変えるべきかは明らかで、モチベーションなのである。モチベーションさえ向上すれば、それは『人材』領域であり、能力開発は見えてくる。モチベーションのない状態で能力開発と言っても、成果に限りがあるのは当然ではないだろうか。

 では、モチベーションを上げる為にはどうすればいいのか。そもそも、人によってモチベーションを上げる要素は異なるのであり、個々の特性を見極めた対応策が必要なのである。

 ここで、少し視点を変えて、人が欲する欲求のレベルを確認してみる。マズローの欲求モデルを見て見る。人が自己実現に向けての欲求を5階層に分類している。低い層の階層の要求が満たされるとより高い層の欲求を欲する様になるモデルである。

 最下層は『生理的欲求』。人間が生活する上での基本的な欲求で、食欲、性欲、睡眠欲などである。その次が『安全の欲求』で、危機的状況ではないか、健康面の心配はないか、経済面の心配はないか。
 その次の層が『社会的欲求』である。人間としての基本欲に問題なく、身を守る安全も確保できていると次に、社会の一員でありたいという欲求が働く。人間は孤独に耐えられないのであり、村八分や仲間外れは、この欲求を損なう厳しい対応になるだ。
 そして、ここまでの基本的な欲求が満たされると、次に『承認欲求』が働く。社会に認められたい、活躍したい、より高い地位を求めたい、金持ちになりたいなどである。
 そして、最上位の欲求が『自己実現欲求』である。自分の能力を最大限に発揮したいという、かなりレベルの高い欲求になる。

 基本的にモチベーションの要素としては、4段階目の『承認欲求』を得るための意欲、或いは、最高レベルの『自己実現欲求』にどう達するかという意欲となる。ここで、よく考えて欲しい、3段階目までの欲求が満たされない状態で、4段階、5段階の欲求は論外なのである。即ち、環境として、3段階目までの欲求が基本的には満たされている必要があることに注意して欲しい。これが意外と整っていない場合が多いのである。

 学校内で、友達が出来ず、先生にも理解されず、常に怒られてばかりで居場所がない。何をしても認めてもらえるどころか、聞く耳を持ってもらえず、同じ空間を共有できない別モノ扱いされてしまう。
 会社内でも、組織の中で浮いて、誰にもまともに話を聞いてもらえない。仕事も任されず、雑用ばかり。仕事をしていても、上司にも自分の仕事を見てもらえず、丸投げ、まかせっきりで、問題を抱えても誰にも相談できない。
 家庭内でも、会話もなく、話はまともに聞いてもらえず、一方的に言われるだけで、コミュニケーションが成立しない。などなど、様々な例はあるだろうが、その状態でモチベーションが高く保てるのは、特異的な反骨精神の持ち主だけであり、通常の人間はモチベーションを高めるどころの話ではなくなる。
 従って、まずは、この次元の欲求、特に社会的欲求を満たす環境を注意して確認することが入口になる。

 学校教育であろうと、会社組織の人材育成であろうと、ジュニアアスリートの指導であろうとも何も変わらない。指導者、教育者、指導担当、先輩、上司、どう呼ばれようとも、最も重要視しなければならないのは、人が育つ環境を提供出来ているかであり、そこの改善は怠ってはならない。

 そして、モチベーション向上に関してだが、基本的に、承認欲求、自己実現欲求が対象になるが、それ以下の欲求と異なり、事はそう単純ではない。個々人によって、何をもって、承認欲求が満たされるのか、自己実現に近づけるのか、が異なるのである。タイプが異なると言えば分かり易いだろうか。このモチベーションのタイプは別レポートで報告したい。