リスク管理視点で考えるコロナ感染出口戦略

危機管理とリスク管理の違いを理解しない、間違った認識が拡散されている事に大きな危機感を感じていると以前より申し上げて来た。繰り返し言うが、危機管理とリスク管理は根本的に違うのだ。

リスク管理とは、将来発生しうる危機状態を予め予測し対策を講じてリスクを受容レベルに低減する事を言う。発生しうる危機状態はリスクを何らかの数値化をする事で評価されるが、一般的には、危機が発生しうる確率と発生してしまった場合のダメージ度合いの積で表される。そして、リスク評価値が取り決めた閾値を上回る状態が確認された場合に、リスク低減対策を実施し、閾値以内に抑える状態を維持するのだ。

従って、対策は発生確率を低下させる策と発生した際のダメージを軽減する策と二通りあり、目的を明確にする必要がある。

そして重要なのが発生しうる危機状態としてどこまでを想定するのかという観点である。考えられる最大限というのは根本的にあり得ない。最大限というのは際限がないからだ。記憶に新しいのは東日本大震災時の津波が想定外だったという言質に対しての様々な批判だ。この件も正確に検討経緯を確認すると、決して想定外ではなく、科学的に検討した結果、発生確率や対策内容等の条件より想定しないという判断をしている。つまりリスクとしては受容したというのが正確だろう。極論言えば、巨大隕石の衝突を想定する訳も無く、リスクとしては受容せざるを得ないのと同じだ。

一方で、危機管理とは、今現在発生している危機事態に対して対応する事である。

即ち発生してもいない危機に、かもしれないと可能性で対策を打つ事は危機管理ではあり得ない。

危機事態と認識、判断された時点で、最初に行うのはその危機の波及範囲、実態の確認である。事実何が起こっているのか、どこまで。そして次に、その危機を危機状態でなくすための具体策を実行する。危機を回避する事が最優先される為、危機状態である事の宣言が必要不可欠になる。

例えばの事例で説明しよう。

大切なお客様とのゴルフの約束が明日。日常よりかなり早起きが必要だが、連日の激務やプライベートのトラブルもあって疲労困ぱい、寝坊の可能性もある。寝坊すれば、大切なお客様を怒らせてしまうので、リスク管理策を実行する。強力な目覚ましを用意、出来うる限り早く寝る等は発生確率を低下させる策。万が一の場合に備え、緊急時にお客様に連絡が出来る様に携帯番号を確認しておくのは発生時のダメージ軽減策。そして、不幸にも寝過ごしてしまった時点で、危機事態発生となる。時間を確認し、スタートに間に合うか否か状況を整理し、予め準備した連絡手段で状況を連絡し、あらゆる手段を使って現地に向かい、謝罪から入り、先方に対して最大限の誠意を示す。そうやってお客様の怒りを鎮めるのだ。

参考までに、よく言われる事業継続計画(BCP)とは、事業が継続困難になる危機事態をリスクとして想定し平時より対策を実施、危機事態発生時に事業として何を優先して継続し、何をやめるか、予め方策含めて計画しておく事である。

実は、東日本大震災後、事業継続計画の取り組みの遅れを認識し、経営課題として多くの企業が取り組み始めている。政府も同様の戦略を持ち、特に医療介護業界に対しては、大きなリスクになり得るとして取り組み強化を業界に訴えかけていたが、業界として殆ど対応してこなかったのが現実である。医療逼迫や医療崩壊はこの事業継続困難事態に当たるので、取り組んでいれば、今の事態は未然に防げていたと残念でならないのだ。

<リスク状況が変化すれば対策も変化する>

さて、リスク管理の視点から、政府の発信した対策変更、自宅療養へのシフトに関して考察してみる。

医療崩壊という危機事態を発生させない為に、直接の管理指標値としては病床使用率がある。正直に申し上げて、現時点で50%前後であれば決して危機事態とは言えず、リスク管理策の実効性を高める時期である。

本来資源として50%も余らせるのは、経営視点からも疑問ではあるが、それは置いておくとして、この数値を低減する施策を検討する。真っ先に考える必要があるのが、分母の数字を増やす事、即ち医療資源を増強する事なのだが、この1年以上国家予算を潤沢に用意して要請しても大きな成果は得られていない。原因は追究必要だが、事ここに及んで分母拡大が期待できない前提に立つと、分子の数値を減少させる以外に方法が無い。

つまり入院患者数を減少させる方法になる。これまでは、陽性者数を減少させる方策に拘っていたが、本来のリスクである死者数や重症者数の減少にも繋がる事もあり、今まではそれでも良しと出来たかもしれない。しかし、重症化数、死者数激減により、リスクの構造が大きく変わってきている。つまり、陽性者が多くても、本質的なリスクは高まらない状況になってきた。

新型コロナの直接的リスクは大幅に低下したのが現実なのである。ワクチン効果や変異による症状軽減などの要因が考えられる。

しかし、残存リスクもある。陽性者が急増する状況で、陽性者が原則入院となると病床使用率の分子を拡大させ、病床の逼迫が生じ、医療の負荷を高め、間接的に医療崩壊に向かうというシナリオである。従って、大半を占める無症状者、軽症患者で病床を埋めるのは得策ではないという判断は適切であろう。

但し、であるならば本来は、2類相当から5類に変更するべきなのだ。現実的には1歩前進の策ではあるが、政治的折衷案としての妥協であり、本質的には誤魔化しの感は否めない。

野党や過激な専門家は猛批判、暴言まがいの発言を繰り返しているが、では対案はどうしようというのだろう、論理的で具体的な説明もない。特に確保病床など医療資源の拡充を図るのは、医療業界の役割なのだがその策を棚上げにしての批判はあり得ない。また、中等症の解釈など、騒動のきっかけとなった毎日新聞が誤報と認め訂正しているにもかかわらず、いつまでも揚げ足を取っているのは、あまりにも酷く嘆かわしい。

危機事態ではないので壊滅状態に至っていないが、もし危機事態であれば大変な事に成り兼ねない。もしかすると、今の日本の国家としての最大のリスクかもしれない。