国際社会の協力を勝ち得るウクライナの頑張りと今後の交渉

国際社会における交渉とは、「押してもダメなら引いてみな」的な日本文化で語られる方法論で語るのは危険である。

国家間の交渉とは国益のぶつかり合いであり、引くという事は一部の国益となる事を諦める事である。この一方的な譲歩で関係が良くなると考えるのはお花畑思考の非現実的夢想であり、性善説に過ぎない。国益のぶつかり合いという事は、ぶつかり、拮抗するポイントがパワーのバランス地点であり、引くという行為はこのパワーバランスを崩す事に他ならない。つまり、引いた結果として発生するのは、引いた地点がパワーバランスの拮抗点に変化するのである。

即ち、何か妥協して引く場合、別の何かを獲得する前提でなければ交渉ではない。これらの交渉カードを複数持ち、交渉に当たり国益を守るのが外交である。そして、軍事力は核も含め、この交渉カードなのだ。

実際に、ロシアのプーチン大統領がウクライナに対して核使用も持さない考えを公言したのは、大きな交渉カードになっている。逆にバイデン大統領がロシアのウクライナ侵攻前に、アメリカ軍の派兵を否定したため、国際社会側のロシアに対する交渉カードを失い、ロシアの侵攻を許す結果になってしまったと評する専門家が多い。

かろうじて、ウクライナのゼレンスキー大統領が国内に残り、戦う姿勢を明らかにし、ここまで立派に国を守る戦いをした事で国際社会の声もウクライナ側に大きく傾いている。これが、逃げて亡命政権として外から対応していたら、現在の様なここまでの国際協力、情報武装化と経済制裁は得られなかったのではないだろうか。

<パワーバランスを崩す情報戦と場外戦>

この様な状況で、国家の国土と主権のために自衛戦争を戦うウクライナの方々に、逃げろ、命を大事にしろ、今負けても長い目で勝つ道がある、プーチンは高齢のため数年我慢すればよい、等との発言が発信され、炎上している。当たり前だろう、当事者を愚弄する無責任発言にしか聞こえないからだ。

「降伏しろ」など一言も言っていない、と主張するネット民も大勢いる。確かに、その単語は殆ど使われていない。しかし、同義の発言は数々あり、論旨としてはその様に受け取られても仕方がない。ウクライナ人に命を優先して降伏せよと迫っている様に感じ取られ、憤怒され、炎上しているのは事実である。意図が違うというなら謝罪して弁明するのが当然だろうが、言い換えてはいるもののウクライナの方に寄り添う様な発言は現時点で聞こえてこない。

NATOの責任で交渉しろとの論点をずらしも多く見受けられる。

ウクライナはNATOには加盟できていない。同盟国も無い。その状況でNATOが交渉の前面に立つことがどれ程難しいか理解すべきだ。むしろ、今現在のウクライナの頑張りと情報戦が、国際社会の理解を得て、通常では考えられない武器供与や強力な経済制裁、国連でも緊急特別総会での非難決議など、ほぼ国際社会が連帯してロシア批判に踏み切らせている。この事実は実は大きいのだ。ウクライナが戦う姿勢を示さずに超えられる壁では決してないだろう。

中国の姿勢を云々する向もあるが、実はウクライナの頑張りが国際社会の連動を生み出した事実を垣間見る限り、自国の国益を考えた場合、取り得る手段としてロシアと同様の軍事侵攻は困難である事ぐらい馬鹿では無いので理解しているだろう。その上で、どの様に強かに立ち回るべきか、相当研究しているだろう。

その様な激動の国際情勢において、表面上、水面下共に活発な研究、論考、議論が聖域を排除して必要なのだ。それは、際秩序や人道などと綺麗ごとだけでなく、日本の国家としての存亡に関わる国益の観点でだ。

無責任なウクライナ撤退論は侵略者優位に働く結果に繋がる危険性を度外視できず、自国の国益も損ないかねない。もちろん、最優先されるのは当事国であるウクライナの国家としての意思を尊重するべきだが、その結果が我が国のこの先の判断にも影響するのも疑い様の無い事実である。国際ルールを無視してようと、非道であろうと、実効支配、征服した結果を覆すのは、話し合いで解決などと言うレベルではなく、無責任に他ならないからだ。

ウクライナのネオナチ化という批判もある。確かに大なり小なりその様な批判はあるかもしれない。それはそれで克服できていない部分があるなら、国際社会の批判の対象にはなるだろうが、それがロシアの軍事侵攻、一般市民を巻き込み、病院や市庁舎などの施設破壊、各施設への攻撃、占拠などの行為を正当化は絶対に出来ない。必要であればロシア自身が国際社会に訴えかける努力が必用だったのだろうが、一方的な論理が酷すぎる。日本に対して慰安婦や徴用工、アイヌ先住民問題などを交渉カードにするべくプロパガンダを繰り返すのと同様に見えて仕方が無いのだ。

未だに戦争ではなく、攻撃もしてない、ウクライナで核開発や生物化学兵器開発、コロナまで生み出したとまで言うロシアの情報を鵜呑みにして一方的に信用できるはずがない。

<交渉とは>

ここまでの状況は、例えロシアが前面侵攻に成功し、一部の地域を占拠し、傀儡政権を樹立できたとしても、既に国際社会を敵に回し、経済的には致命的な打撃を受け、国内の情報統制が崩れた時に国家存亡の危機状態にまで陥るだろうと見るのが妥当であろう。

つまり、ロシアにとって戦闘に勝って、戦争に負け、国益を失う状況なのだ。

国家間の話し合い、外交は交渉である。交渉とは、社会人なら当然の常識レベルで学ぶだろうハーバード流交渉術によると、WinWinを目指すのが前提である。つまり相手の利益も考えた上で、当方の利益も獲得する両立を目指すのである。

もちろん、国益は相互にWin-Winとなるとは限らず、Win-Loseの場合もあり得る。それは、スタート地点の国力、パワーバランスの崩れがその様な結果を招いているのだ。パワーバランスが崩れるから、そのバランスを適正化する為にWin-Loseとなってしまう。

このパワーバランスを崩す最大の状況は実効支配である事は、日本人であり、歴史を少しは勉強しているなら、理解しているはずであろう。

そして交渉に第三者を巻き込むには、当事者の本気が前提であり、第三者に相応の利益、つまりWin-Win-Winを成立させる必要がある。ウクライナの頑張りで第三者を巻き込む大義名分が生まれ始めている。もう少しだ。ロシアの窮状を生み出せたのは、大きな交渉カードになるのだ。

但し、物事は詰めが肝心である。無責任で当事者を愚弄する様な情報は逆行する力を増しかねず、その認識が拡散してしまうと、非道を正当化してしまう最悪の事態すら生まれかねない。そうなることで自国の活動が抑制されず、最大の利益を得る国家はどこか、考えれば自明なのだ。

ウクライナ情勢における日本の為すべきこと

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった。G7を中心とする国際社会は批難表明し経済制裁を発動しているが、国連安保理は当事国が常任理事国であるため機能はしない。

ウクライナ自身は現時点でNATOには加盟しておらず集団的安全保障体制が弱く、ソ連時代に配備されていた核武装も放棄している状態であり、現実的な抑止力に乏しく、米軍なども軍事的な対抗手段が取り難い状態である。

この侵攻は日本にとって決して対岸の火事ではない。しかも周辺国の意思が見え隠れする様々な情報が飛び交っており、日本として何を為すべきか、どう考えるべきか、口先だけではなく本当の意味で“しっかり”考えた具体的行動が求められている。

<中国の動向>

周辺各国の情報としてまず、中国を見てみる。中国は、一見ロシア擁護の発信と勘違いしている向もあるが、実際は、米露含めた自制を呼びかけている。侵攻とは呼ばないと擁護しつつ、決して肯定はしていないからだ。つまりどちらかを擁護する訳では無く、正面からの回答を避け、自制を求める発言に現時点では終始している。

この理由を深読みすると、中国の抱える国際問題、新疆ウイグル地区や台湾などへの波及を避けたいのではないだろうかと読めてくる。

ロシアはウクライナ東部の分離派地域の独立を承認し「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」と称した。そしてウクライナが西側に植民地化されているとして、人民の安全の為、平和維持を目的に軍事侵攻を始めた。

中国の立場でこの理屈を表裏両面から冷静に見てみたい。例えば台湾に自分達が軍事侵攻する理屈と出来る考えも聞こえてくるが、台湾なり新疆ウイグルなりに侵攻するのにその様な論理武装は余り必要ではなく、従来の主張である自国であるとの論理で粛々と進めることに躊躇は無いだろう。この理屈を使うとしたら、沖縄に侵攻する言い訳だろうか。しかし、沖縄侵攻はリスクとして考える必要はあっても、ウクライナとの決定的な違いは米軍基地の存在である。全面抗争前提は相当困難であり、だからこそ基地反対活動に精力的なのだから。

それよりも逆に考えてみよう。もし西側諸国が、ロシアと同じ論理で台湾の独立を承認し、国連加盟を承認、軍事同盟を結んだとして平和維持の為に米軍を駐留させると宣言したらどうなるか。ロシアの論理を容認するなら、寧ろ、この台湾独立の論理の方が実現性は高くないだろうか。中国の煮え切らない、双方自制を求める姿勢は、このリスクを恐れての事ではないだろうか。

インドは今までのロシア寄りの姿勢を一変させ、ロシアに対する批判を強めている。まだ既存の関係式を壊す様な制裁には後ろ向きの姿勢だが、太平洋の安全保障連携国として、インドを明確に西側に引き込む絶好のチャンスではないだろうか。

一方で、韓国はロシア寄りの姿勢を保ち続けていたが、ようやく経済制裁に賛同と発表した。これは相当な米国からの圧力で追い込まれた結果だろうが、それでも賛同までであり、自国の具体的な対応に関しては明確でない。つまり、圧力をかけないと、いつ裏切るかもしれない、状況に応じてどう出るか分からない、信用に値しない国家との認識を強めるべきだろう。

<日本の採るべき道>

国際社会は決してユートピアやお花畑ではない。各国、自国の利益を最大化する為に、あの手この手、諜報活動も、サイレントインベージョンと呼ばれる施策も当然のごとく実行されている。自国を守る為、自国の利益を最大化する為に。綺麗ごとでは語れない。

日本がロシアと対峙しているのは、北方領土だけではない。ロシアではアイヌ民族はロシア人だと吹聴もしている様だ。つまり、北海道への侵攻も視野に、そうすることで北方領土、千島列島、樺太などの実効支配を確固たるものにしている。

韓国は全く理屈の通らない強弁で竹島を実効支配し譲らない。瀬取りの発覚を恐れたと一部で言われるレーダー照射問題や反日歴史認識による国際法無視など目に余り、理屈で語れないなら力で語る以外に建設的な打開策はないとすら思える状態だ。

この様な国際環境において、日本が国民の命と財産、国土を守る為に、為すべきことは沢山ある。

まずは、軍事的抑止力の強化。敵基地攻撃能力の議論に言葉遊びで無駄な時間を使っている暇はない。ウクライナに侵攻しても米軍含めた軍事的反撃が無いと見做され、ロシアの侵攻が始まっている。侵攻までにロシアはジャブを打って、観測気球を上げ、大丈夫と確信しての侵攻だろう。逆に言うと、侵攻すれば反撃を受けると思わせれば、一定の抑止効果になる。

抑止力は、その実効能力と行使する意思を持っている事が必要不可欠である。

実効能力としては、軍事費拡大は当然だが、原子力潜水艦配備など具体的に動く必要がある。意思としては、国会で敵基地攻撃能力に反対する勢力が存在する事自体他国から見たら大きなマイナスだろうし、憲法改正や緊急事態法制、スパイ防止法など当たり前のことを当たり前に進める国である事を内外に示すことが肝要だろう。

有事になってから有事対応を議論するのはポピュリズムを生む危険が指摘されるが、日本の場合、今の有事でない限り、真面な議論すらできない、軍事忌避マインドがポピュリズムとなっていて、縛られ続けて来たのではないだろうか。今こそ、対岸の火事ではなく、自国の事として、現実から目を逸らさず、正面から議論するべきだろう。

そして、意思を示す方法として、やはり軍事演習を行う事だろう。台湾海峡、沖縄、尖閣、竹島、千島列島、樺太などを具体的な対象として。

更にエネルギー政策も実は安全保障の最重要課題として舵を切るべきだろう。まずは、米国のシェールガス採掘拡大を促し、ロシアのエネルギー政策に打撃を与える事は重要な制裁にもなるし、西側諸国のエネルギー安全保障の下支えになる。そして、日本としては、原子力発電所の再稼働に大きく舵を切り、石炭などの石化燃料活用の拡大も目指すべきだろう。環境問題に関しても、世界に誇る省エネ・脱炭素技術は他国と比して環境にも優しい。化石と馬鹿にするのは技術の進歩を理解していない非科学的活動家か、意図的な利益誘導でしかないので、惑わされてはならない。

経済制裁は大した効果は無いだろう。経済制裁が致命的な影響力を持つのなら、北朝鮮はとうの昔に核やミサイル開発は断念しているだろう。そうならないのは、経済は取り戻せても、国土や国体を取り戻すのは簡単では無いからだ。

しかし、それでも経済制裁は必要不可欠であり、西側諸国の足並みを揃える意味合いもある。バイデン大統領は通貨取引規制にドル、ユーロ、ポンドに加えて円も入れた。しかし、日本の制裁内容に円取引の停止が含まれていない。これでは、韓国と同じ扱いにされてしまい、ブーメランが自国の喉に突き刺さりかねない。こういうところでも意思を即刻、明確に示す必要があるだろう。

お気楽に経済協力を言う外相は即刻更迭し、北方領土での経済協力も見直したいと宣言した髭の佐藤正久自民党外交部会長を前面に押し出す時かもしれない。