郵便投票のセキュリティ管理思考

 アメリカ大統領選挙の当確が出され、バイデン次期大統領への祝意が各国から発信され、敗北宣言をしないトランプ現大統領の往生際の悪さを非難する声一色に世の中は染まっている。両論あれば問題視しないが、日本のマスコミ、識者含めて、ほぼ一色であることが異様である。郵便投票やそのプロセスに対する疑問は実際にあるのだから、異論がないことが奇怪で仕方がない。

 客観的に、セキュリティ管理の常識の観点から言うと、今回の選挙における郵便投票は適切とは決して言えず、不正の有無に関わらず無効との主張に一定の論理性がある。
 とは言え、各国の国内法、この場合はアメリカの州法も含めた法制度において、問題なしと判断されたから実施されているのであり、国内法の理念が優先されるべきで、選挙結果は覆らないのも事実であろう。しかし、それは中国共産党1党支配による選出(選挙とは言わなくとも)を民主的手段での選出とは言わないが、他国から異論を挟めないことと同義であるに過ぎない。
 つまり、アメリカ国内の法的解釈問題であり、他国から口出しは出来ないが、客観的かつ民主的妥当性が担保されている事とは全く違う話なのだ。

 なのに、日本国内でも、郵便投票の全てをカウントすることが正義だと言う主張をそのまま民主主義の正義として伝え、不正の温床である郵便投票は無効だと言う主張は言いがかりで民主主義への冒涜だと、一方的に正義と悪を仕分けし決めつけている。これは決してフェアな構造ではない。

 誤解しないで頂きたいので繰り返すが、今回の大統領選挙の勝者は、民主党バイデン候補である。例え、フェアでない構造化での勝利であろうとも、結果としての勝利は覆らないだろう。それが権力闘争であり、アメリカの国家としての選択なのだからとやかく言わない。
 しかし、日本のマスコミ、識者が、トランプを悪、郵便投票も含めた手法が正しいかの様に伝えるのは、根本的に間違いである。

 日本としては、正確な分析をするべきで、真相は分からなくとも、正義の為に手段を択ばない国家の姿勢が示されていることを冷静に今後の判断の基礎にするべきなのだ。今の日本のマスコミ報道が偏向して、国民への正しい判断基準の情報提供を阻害しているのであれば、国民として今まで以上にメディアリテラシーを高める必要性がある。おかしいことにはおかしいと思い、自身で考え、調べる力が必要になってくる。

その観点で、本題の郵便投票のセキュリティ管理視点での考察を行う。

 まず、真っ先に断言すべきは、郵便投票の不正の証拠を示す必要があると言うのは、言いがかりである。不正が行えない、管理運用体制を説明する責任が運営側にあるのであり、疑義が挟まれたら、第三者監査含めた確認を受けてでも、正当性を示さねばならない。

 例えば、クレジットカードをスキミングされ、悪用されてしまった際に、利用者はスキミングされた事実の証拠を示し立証しなければ、不正を訴えられないと言っている様なものなのだ。そんな立証責任を求められたら、泣き寝入りするしかないだろう。
 この場合、ログとして残っている利用履歴、利用実態を確認し、不正の有無を確認するのは運用側の責任だ。運用側にデータがあり、それだけの情報を取り扱い、不正させないサービス環境を維持管理する責任があるからだ。

 選挙でも同様だ。本人確認の手順、不正として考えられる手段に対する防止策とその実施記録。郵便投票で言うならば、有権者登録から郵送した投票券が、戻ってきた際の真贋判定機能。受付から、集票までの処理の中で不正の入り込む隙間の無い運用手順とその運用実態、トレーサビリティログの開示。ここまでやっていれば大丈夫と言わせられるかどうかが一つの勝負だ。
また、郵便投票受付の有効期間延長や共和党の立ち合いをNGとした判断を下した事由と、その際に予め予測できる不正リスク指摘に対するリスク低減策の実施内容、判断の適正さ、等。

 郵便投票における不正防止が充分でなく、接戦において訴訟に発展するリスクは以前から予測されていた。にも関わらず、その点の対応策を講じておらず、強引に押し通している様にしか私には見えない。まさか、極一般的なセキュリティ管理の思考回路が存在しないとは思わないし、思いたくもない。
 繰り返すが、アメリカ国内的に押し通すのは口出ししない。しかし、日本の立場で、この状況で、トランプ氏が単に駄々をこねているだけでなく、ある意味正当な主張をしていることも理解しておく必要がある。その両面を伝えないマスコミは罪深いとしか言い様がない。

 その程度の正当性もなくして、7000万票以上の空前の得票を得ることなどあり得ないし、アメリカ国民はそんなバカではない。これが分断なら、分断と言う事実は多様性という意味で現実に存在していて、分断を認めリスペクトすることが重要だ。この分断には、時には厳しく、時には寛容に、是々非々で対応していくことで乗り越えていけるのだ。
 アメリカ的に言えば、選挙が終われば、一つになる、というのは幻想であり、多様性がある中での舵取りをするのが民主主義政権の責務だ。
 日本側からは、アメリカの多様性を正確に見極め、その判断基準などを分析し、その情報を国民に伝え、同盟国としての外交に活かせる様にすべきだろう。

トランプ絶体絶命の構造

 2日前に勝利宣言の原稿を投稿したが、翌朝から状況が一変した。ここに至って、木村太郎さんも、9分9厘トランプの負けを宣言したし、事実上敗戦は間違いないだろう。しかし、今回の大統領選挙の構造を仮説推論すると、見えてくるものがある。一部では今回の選挙を『機会の平等』と『結果の平等』の対決と称していたが、ある意味、バイデン勝利でアメリカは見た目の『結果の平等』を確立すべく、不都合な事実は見せない、知らせない、闇に葬る。正義の為には、採るべき手段は正当化される。まさに、中世ヨーロッパの様な世界観に突き進む危険性すら感じる。

 断っておくが、私自身はトランプ支持者では決してない。彼の出鱈目な物言い、乱暴な言動など決して支持は出来ない。しかし、客観的に見て今回の選挙はとてもフェアとは思えないものだった。郵便投票をトランプは不正の温床と言い続けたが、マスコミは往生際の悪さや、民主主義に従わない品性を非難し続けている。

 私のビジネス経験上からはっきり申し上げる、他国の選挙制度だから非難は出来ないが、日本であれば絶対にこの様な郵便投票は採用できない。それはセキュリティ管理上、公正を保つことが不可能だからだ。トランプが不正と言っているのは、実は極めてまともな発言であり、もし日本で同様の郵便投票が法案として出てくれば、不正の温床と叩きまくられるのは間違いないのだ。詳細までは記さないが、あの方法なら、何とでも票を操作することが可能である。いくらでも不正の方法は思いつくのだ。

 前日まで70万票リードして、残り未開票が100万票だったのに、夜が明けると、差は60万票に縮まり、未開票が140万票に増えた。つまり50万票どこかから増えたのだ。そして、結果逆転となった。
 投票数を見ても、トランプは大方のマスコミの予想、世論調査を覆し、歴代最上位にランクされる程の得票を得た。しかし、郵便投票でバイデンが後から上回った。
 負けていれば、どこまでも後から票を積み増せる様に見える。最終的に投票率が100%超えない限り問題にはならないだろう。

 それでも、郵便投票を公正な1票として、民主主義に従えと非難される。事実は、郵便投票では公平な民主主義が維持できないのだが。これは公平では決してない。
 不正の根拠、証拠を示せとトランプは非難される。しかし、その論理は、騙しとおせたら何をやっても正義だと言っているに等しい。不正の証拠が示せ、発覚するのは、氷山の一角でしかないのだから。これだけ穴だらけの精度であれば、1票の正当性を示す責任があると考える方が真っ当なのだ。

 トランプがアメリカ社会の分断を生み出した様に言われるが、実は、分断している実態を見える化しただけであり、既に分断はあり、隠蔽されていた様に見える。そして、いわゆるフェイクニュースが不都合な真実を隠し、不都合な異端児を攻撃する構造に見えて仕方がない。その結果、分断が無くなってしまうと、『統制された結果の平等』の完成である。それは、決して望む形ではないはずだ。

 今回の大統領選挙の構造を『トランプvs反トランプ』と2日前に称したが、『トランプvs反トランプ+マスコミ(情報)』という構造が垣間見えるのだ。

 トランプが勝利宣言をしたとマスコミは叩きまくったが、その前にバイデンが同様の宣言をしているが批判は皆無。バイデンの宣言は、勝利を宣言しつつ、最後の1票が開くまで敗北宣言しないと言っている。これも、負けている立場で、ある意味往生際が悪い姿勢だが、非難されず、逆転されたトランプは往生際が悪いと責められる。

 確かにトランプは非難を受ける言動が多いし、子供じみた発言もある。しかし、今回の選挙に関しては、同情を禁じ得ない。反トランプが完全正義として情報が統制されている。むしろ、論理的に真っ当なことを言っているのはトランプに見えるが、勝てば官軍、負ければ賊軍でしかない。

 今回の大統領選挙は勝負あったとすると、マスコミという反政府勢力が勝ったことになるが、これまでのアメリカは政権交代があろうとも政策の継続性があったが、今回はどうだろう。

 そして、日本も他人事ではいられない。今回の大統領選挙の日本における報道は、アメリカとほぼ同じ調子で行われている。つまり同じ構造である。であるならば、情報を鵜呑みにできない状態であり、素のデータから個々に分析し読み取っていく力がなければ、生き抜けない世の中だと認識しなければならないだろう。

セキュリティを守る『組織風土』

 組織の構成員がモチベーションを高く保てない状態では、その組織は良い結果が出せないだろうし、一時的に無理して出していくと、その歪は大きな危機的現象を生みかねない。
 最も軽い現象は、組織員の脱退、会社なら退職。何らかの事由で、それも困難な場合、組織内犯罪、内部犯行、ハラスメントと組織の腐敗に向かって一直線に進んで行くだろう。

 セキュリティ・マネジメントの世界で、昨今強く言われるのが、組織内犯行を防止、組織員を疑う、いわゆる『性悪説』による対策の推進がある。しかし、はっきり申し上げるが、『性悪説』を究極に追及する体制において、実はセキュリティは守れないという矛盾が発生する。セキュリティの世界、いたちごっこであり、攻撃と守りは常に進歩しており、終着点は無い。
 組織内において、『性悪説』を基に、何もできない様に雁字搦めの状態では、仕事は出来ず、それが不必要で無意味に厳しい場合、モチベーションの低下とともに、つい出来心を起こさせてしまう環境となる。バランスが必要なのだ。
 簡単に言えば、『性悪説』の究極の対応は、人に何もさせないこと、なのだ。何もさせなければ、何も悪いことはできない、間違いも起きようがない、しかし、何も価値も生み出せないだけである。

 だからといって、セキュリティ度外視、ゆるゆるの状態では、これからの時代、サイバーセキュリティや情報セキュリティは他人事ではなく、明らかに攻撃の手段は高度化している。また、社会的風潮も、セキュリティ面での不正が発生した場合の社会的制裁は厳しく、機密情報漏洩や個人情報漏洩などが発生した場合、経営は危機管理状態に陥ることは間違いない。
 危機管理対応として最も重要視されるのが説明責任だが、発生した事象が何が原因でどうなったのか、その問題点は何で、どう再発防止策を採るのか、明確にかつスピーディーに説明する必要がある。
 この説明責任を確実に果たせれば、逆に信頼を勝ち取ることにもつながるが、説明できないと最悪の事態に突入だろう。ゼロリスクは、あり得ないので、インシデントを100%防ぐことは出来ない。如何にマネジメントできるかが重要であり、説明することで、そこまで対策していたのなら致し方ない、と思ってもらえる要点が『性悪説』を前提にした対策なのである。

 では、セキュリティインシデントを防ぐには、どうすれば良いか。『性悪説』対策でダメなら、何があるのか。

それは、断言しよう、『組織風土』なのだ。

 組織の内部犯行事例をその真因を追求し、考察を続けて行き当たる、答えが『組織風土』である。テレビドラマの様に、悪意を持って犯行に及ぶケースというのは、実はレアケースである。その犯行に対して失うものと、得るものを天秤にかけると到底釣り合いが取れないからだ。もちろん、米国ペンタゴンなど国家機密を取り扱う場合は、一発勝負、天秤は釣り合うかもしれない。しかし、それは一般のレベルではない。
 では、なぜ内部犯行が起きるか。それは、その組織内で、立場や居場所がなくなり、追い込まれ、已むに已まれず、つい犯行に及ぶ。それは、『組織風土』が病むことで、中にいる組織構成員が悪意を持った結果ではなく、負けてしまった結果なのである。人は弱いもの、これを『性弱説』と言う。

 つまり、これからのセキュリティ・マネジメントに求められるのは、発生しうるリスクに対して、説明責任を果たせる対策を実行し、真の意味で事故を発生させない、鉄壁の『組織風土』を構築することに他ならない。

 この『組織風土』を健全に保つために、構成人員のモチベーションの総和を高く維持する必要がある。この場合のモチベーションを測る方法として、モチベーションタイプやマズローの欲求モデルよりも、ハーズバーグの動機付け・衛生理論分析が適切だ。

 ハーズバーグの動機付け・衛生理論は、モチベーションの要素をプラス要因の動機付け要因と、マイナス要因の衛生要因に別けて考える。動機付け要因としては、『達成』『承認』『仕事そのもの』『責任』『昇進』『成長』に分類、衛生要因は、『会社の方針と管理』『監督』『監督者との関係』『労働条件』『給与』『同僚との関係』『個人生活』に分類する。
 各構成員に、アンケートするなどして、この分類ごとのスコアリングを行い、『組織風土』面の問題を洗い出し、対策を打つべき課題をあぶり出す。
 簡単なアンケートで、かなりのレベルのスコアリングがはじき出せるので、対策前と後の変化を見ることでKPIともなり得るのだ。

最後に繰り返しになるが、組織の弱さの順は
① 悪いことをやれてしまい、ついやってしまう組織
② 悪いことをやりたくても、やれない組織
③ 悪いことはやれてしまうが、やらない組織
④ 悪いことはやれないし、やらない組織
なのである。