東京大学論文(GoToと感染の関係性)の考察検証

 東京大学の論文(GoToと感染リスクの関係性調査)が公開された。査読前だが、緊急性が高いと言う趣旨での公開になる。メディア、専門家、野党議員は挙って、結論として『GoToは感染リスク高い』が研究結果だと伝えている。同時に論文内記載の限界点も伝えてはいるが、充分伝わる言い方には思えないので、一般社会では誤解が広まっている様に感じる。
 従って、詳細の確認が緊急に必要と感じたので、通読してみた。結果、誤謬性の高い部分が存在したので下記に示す。確かに統計データ処理にはかなり気を使って精度向上しているが、データを元にした考察では、結論ありきの感が否めない。査読では、良識的な指摘が為されることが想定できる。

① a.GoToトラベル利用経験(過去1~2か月)とb.過去1か月以内の症状経験の関連を問うには、a.b.の時系列が明確である必要があるが、時系列は明確でないので関係性を問えない。


② 有症率の差をGoToトラベル利用の影響とした場合、GoToトラベルの母集団にも差分と同様の発生確率での有症状者が発生する必要がある。11/15までに5260万人泊の利用が報告されており、1人平均2回利用と割り引いて考えても、2500万人規模の母数に対して、1%の25万人規模の有症状感染者が通常より多く検出されて然るべきであるが、現実の感染者数規模は異なる状況である。


③ GoToトラベル利用者の内、高齢者の方が感染リスクを恐れているため、慎重に行動してリスクを増加させていなかったという考察は、即ち、非高齢者でも慎重な行動を実施さえすればGoToトラベルは感染リスクを増加させないとの考察にもなる。即ち、GoToトラベル中止による移動制限よりも、感染予防に対する慎重な行動の方が感染抑止に効果がある事になる。


④ 一方で、高齢者が慎重な行動をすると言う考察は根拠のない印象情報である。実際、GoToトラベル利用時の高齢者の行動は、むしろ感染抑止の認識が薄い印象すらある。それは日常行動においても同様に確認される。(但し、統計的に論ずるデータは存在しない)


⑤ 高齢者と基礎疾患のある人をGoToトラベルの対象外とする目的は、感染拡大のコントロールではなく、感染した場合の重症化リスクの高さを考慮し、直接感染機会の低下を目的としており、施策が有効でない理由にはならない。


⑥ 記憶による症状の自己申告と新型コロナ感染を直接関係性を持たせている論理に無理があり、そのことでGoToトラベル事業が感染拡大に一定の影響がある可能性があると論ずるのは飛躍し過ぎである。


⑦ 査読前にこの結論を公開することで各種メディアが結論を伝え、一般国民に不確かな部分が充分に伝わらず、飛躍した結論だけが伝わっていく現象は、フェイクニュースの類を免れず、後から誤謬性が報告されても、一旦広まった印象が消えないのが一般社会であり、査読前の公開は影響力の大きさを考えると慎重であるべきだった。


⑧ 感染リスクの高い人の定義が、感染抑止行動の甘い人、慎重な行動を心がけない人であれば、感染リスクが高い人がGoToトラベルを利用する傾向が強いと言う論理は一定の理解が出来る。しかし、その感染抑止行動の甘い人、慎重な行動を心がけない人は、例えGoToトラベルを利用しなくても、日常の行動にて同様の感染リスクを有するのであり、GoToトラベルを感染リスクの要因と論ずることは出来ない。


⑨ 全体的に結論ありきでの論理展開の印象が拭えず、このデータからGoToトラベル事業の是非を論ずるのは無理がある。


⑩ 但し、感染抑止行動、慎重な行動が感染抑止に効果があるとの論旨は理解できるものであり、感染抑止行動としての会食時含めてのマスク着用や3密回避、ソーシャルディスタンス、手洗いうがい等の重要性を改めて示す結論には導くことが出来る。